バスキア氏の『無題』を観て、の話。
ある日、普段は福岡に佇むジャン=ミシェル・バスキア氏の『無題』が
埼玉県立近代美術館に巡回してきたと小耳に挟み、観てきました。
この記事は、その1枚の絵と向き合った約1時間を簡単に記したものになります。
(鑑賞時のメモを掲載しているので、一部 意味が通りにくい箇所もあります)
今回も、また鑑賞ラヴレターとなっています。
<1回目>
バスキア氏、24歳の時の作品。
これまで鑑賞した作品とは、桁違いに世界に包み込まれていった。
圧倒的な生命力と、同じぐらい主張している生きていることへの戸惑い。
本人の意識とは反するように炸裂するセンス。
伝えたいという想い。でも物腰の柔らかさや謙虚さが見えてしまう危うさ。
何とも上品な自己主張である。
言葉の散らし方、そして、そのテキストが持つ絵画性。
一つひとつのモチーフに妙な意味を持たせるその手法。
どういうわけか、すべてが「それじゃないといけない」と感じる説得力。
なのに、それらのモチーフは何ともコミカルかつ極上のヘタウマで
深刻に受け止めるものではないとバスキア氏にささやかれている気持ちも芽生える。
このバランスのすべてが、とにかくおかしい。いろいろな意味でおかしい。
<2回目>
2回目なのに、鳥肌が立ったので驚いた。
(当時は荒々しいという評価を受けていたのかもしれないが)
荒々しさが、激しさが全く感じられず、
物音ひとつしない美術館にとんでもなく似合う作品である。
そこに描かれているのは、バスキア氏の深い瞳の奥の静けさみたい。
そして、もちろん2018年に見ていても、とびっきり魅力的。
けばけばしさが見当たらない。
でも、当然死んでいるわけではなくて、驚くほどにかっこいい。
そして、驚くほどに「かっこいい」という形容詞が似合う。
波打つ海に包まれているみたい。そんな描写は全くないのに。
こんなに安心する黒を見たことがない。
こんなにまじまじと見ているのに
優しい顔を見せる蛍光の黄色を見たことがない。
そして、ほんの少しだけ添えられた おとなしくて強い赤。
配色のバランスのすべてが、とにかく完璧。
<3回目>
POSの下に-と描かれ、NEGの下に+とある。
そして、文字がとてもいい。
端正さが伝わる文字。バスキア氏の繊細さが伝わる文字。
でたらめ、って言葉が浮かぶけど、
それは「でたらめじゃない」と感じるから。
「未完成に思える」ってキャプションに書かれているけど、
どこにもそういう隙はないように見受けた。
とにかく色味に目を奪われる。
ばら撒かれているモチーフは広がりがあるものばかりだからか、
開かれている印象を持った。
でも、閉塞感がないわけではない。
その揺らぎが直に表れている。
ここまで絵に描かれているモチーフの話をほぼしていないけど、
そのことに触れなくても、いつまでも語れそうな1枚だ。
<終わりに>
ミュージアムショップで、様々な作品の絵葉書が並ぶ中、
バスキア氏本人が写っているポストカードを見つけた。
そして、そこで見せる顔もいつものように怯えを隠そうとしない表情をしていた。
バスキア氏の顔つきには、彼の作品と同じぐらい目が離せない何かが潜んでいる。
バスキア氏はただただ単純に、自分の顔に貼りついたその何かを
キャンバスに移動させていただけなのかもしれない。
バスキア氏を脅かすものを、バスキア氏の目の奥を海底のような場所にするものを、
そして、バスキア氏が27年間で目に写してきたすべてのものを。
そんなことが、バスキア氏の『無題』を眺めて、頭の中を駆け巡った。
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今回 補助線が見たバスキア氏の『無題』は、福岡市美術館に所蔵されています。
その福岡市美術館が休館中のこの時期を利用し、各地に所蔵作品を巡回させ、
その一環で、現在、埼玉県立近代美術館で以下の企画展が行われているようです。
バスキア氏の『無題』はもちろん、その他にも見応えある作品が展示されています。
(個人的には藤野一友氏の『抽象的な籠』も拝めて嬉しかったです)
モダンアートが辿った歴史も分かりやすく追える、素敵な展覧会でした。
こちらの展覧会は:
場所:鳥取県立博物館 http://www.pref.tottori.lg.jp/museum/
会期:2018年2月3日(土)~3月18日(日)
場所:埼玉県立近代美術館 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/
会期:2018年4月7日(土)~5月20日(日)
場所:広島市現代美術館 https://www.hiroshima-moca.jp/
会期:2018年6月2日(土)~8月26日(日)
場所:横須賀美術館 http://www.yokosuka-moa.jp/
会期:2018年9月15日(土)~11月4日(日)
という巡回先で開催されていた/されていくようです。
横須賀美術館 meets バスキア!
横須賀美術館好きとしては、何とも気になる組み合わせです。
それでは、今回も ご笑覧・ご清聴ありがとうございました。